日々のいろんなことをあれこれ。
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マリレニでバレンタイン。
これだけだとちょっと不完全燃焼かなぁ…という感じですが。
ちなみに甘い。(いろんな意味で)
チョコレートタイム
「レニ、いる?」
部屋の外からマリアの声がしたのは、レニが日記を付け終わる頃だった。
慌てて椅子から立ち上がり、ドアを開ける。
廊下には、少しそわそわした様子のマリアが立っていた。
「何、マリア?」
「今から…ちょっといいかしら?」
「あ、うん」
頷くと、マリアはよかった、と安堵した表情を浮かべる。
軽く手招きされ、マリアの部屋に招き入れられた。
足を踏み入れた途端にレニの鼻腔を甘い香りがくすぐる。
(…この香り、)
「チョコレート?」
「えぇ、ちょっと…ね」
今日一日だけで一年分のチョコレートを見たのではないかというレニには、その正体がすぐに分かった。
勿論、それはマリアも例外ではないのだが。
部屋の隅には箱いっぱいのファンから貰ったチョコレートが置かれている。
しかし、この香りはその中からしているはずもない。
不思議に思ったレニが部屋の中を覗くと、テーブルの上に小さな鍋があった。
鍋の下には火を点した小さなろうそくが置かれ、鍋を温めている。
チョコレートの香りはどうやらここからしているようだ。
「これは?」
「これはチョコレートフォンデュっていって…チーズフォンデュのチョコレート版ね」
あまり甘いものを食べない彼女の夜食にしてはかなり珍しい。
驚いたようにチョコレートフォンデュとマリアの顔を交互に見て首を傾げるレニに、マリアは頬を赤らめながらそっと囁く。
「…今日、バレンタインデーだから。…あなたに、ね」
少し照れたように微笑むマリアに、レニの頬がほんのり赤くなる。
「ボクに…?」
「本当はもう少し凝ったものを作りたかったんだけど、あまり時間がなくて…」
今、花組は春の公演に向け連日厳しい稽古を続けている。
稽古の合間を縫ってここまで準備するのも大変だっただろう。
申し訳なさそうなマリアに、レニは力いっぱい首を振ってそれを否定する。
「ううん…ボク、すごく嬉しい…ありがとう、マリア」
精一杯の気持ちを込めて感謝の言葉を告げるレニに、マリアも自然と笑顔になる。
「…それじゃあ、いっしょに食べましょうか」
「うん」
レニは頷き、マリアが引いてくれた椅子に腰掛けた。
鍋の横に用意されているのは、フランスパン、マシュマロ、真っ赤に熟した莓、スライスされたバナナ。
様々な具材が少量ずつ置かれている。
きっと夜だからと考えて量を準備してくれたのだろう。
「いただきます」
手を合わせ、どれから食べようかと少し迷った後に、レニは莓を一粒串に刺した。
それを鍋の中のチョコレートに絡ませる。
真っ赤な苺にチョコレートがコーディングされ、艶のあるダークブラウンに染まった。
果実を噛むと、口の中に甘いチョコレートの味が広がり、それは直後に甘酸っぱい莓の味に変わる。
「おいしい」
「そう?よかった」
マリアは安堵したように微笑み、自身も具材に手を伸ばした。
それから暫くチョコレートフォンデュをふたりで楽しんでいたが、徐々にレニの口数が少なくなっていった。
突然元気の無くなったレニを心配し、マリアは顔を覗き込む。
「レニ?もうお腹いっぱい?」
マリアの問いかけに、レニは小さく首を振った。
どこか具合でも悪くなってしまったのかと少し考えていると、レニはマリアから目を逸らすように俯いて小さく呟いた。
「…ボクも、用意すればよかった」
「え?」
「チョコレート。マリア、甘いもの苦手だし、たくさん貰うからと思って、ボク…」
途切れ途切れに呟かれた言葉にマリアは困ったような笑顔を浮かべる。
(そんなこと、気にしなくていいのに…)
バレンタインデーに好意を寄せる人間にチョコレートを贈るという習慣は日本独特のもので、ここ最近広がってきたものだ。
自分が甘いものが苦手なのも事実だし、そのことでレニが気を遣ってチョコレートを準備出来なかったこともマリアには分かっていた。
それに…。
「バレンタインだからといって特別なわけじゃないわ。これは、ただ私がしたかっただけ」
そう、バレンタインだからというのはマリアにとってあまり重要ではなかった。
バレンタインデーというイベントに託けて、レニの喜ぶ顔が見たくて準備したのだから…。
「でも…」
「それに、私はいつもあなたに色んなものを貰っているもの」
マリアの言葉に、レニは不思議そうに首を傾げた。
ここ最近、マリアに何かをプレゼントした記憶がない。
疑問に思ったレニが質問を口にするより早く、マリアがそれを答えた。
「愛、とかね」
瞬間、レニの顔が真っ赤に染まりあがる。
「…愛なら、いつもボクの方がいっぱい貰ってる」
ぽつりと呟かれた言葉に、今度はマリアの頬が赤くなってしまった。
「そ、そう…かしら」
「うん」
「……」
「……」
お互いにどう返すべきか迷うふたりの間を沈黙が流れ(結局ただの惚気合いになっていたのだが)、やはり沈んだ表情を浮かべたままのレニを見てマリアは少し悩む。
そして、思いついたあるひとつの『提案』をレニに示した。
「じゃあ、食べさせて?」
「え?」
「レニが、私にチョコレートを食べさせて?」
「う………うん」
返答までだいぶ間があったが、赤く染まった頬を隠す術もなくレニは頷いた。
皿からマシュマロを一粒串に刺し、たっぷりとチョコレートを付ける。
串のまま差し出すのはさすがに気が引けて、串からマシュマロを外してそのまま指で摘む。
潰さないように気をつけながら、茶色に染まったマシュマロをマリアの口の前に差し出した。
「はい、…あ、あーん、して」
恥ずかしがりながら差し出された指に、心の中では悶絶しながらマリアはそれを口にする。
レニがほっとしたのも束の間、マシュマロから指に伝うチョコレートをマリアの舌が掬い取った。
指先に感じたぬるりとした感触に思わずレニは指を引っ込めようとするが、いつの間にかレニの右腕はマリアの手できっちりと固定されていた。
「マ、マリア…っ、ダメ…ッ」
レニの制止の声を流し、マリアはレニの指に舌を這わせる。
ゆっくりと、官能的に。
チョコレートを舐め取るというよりも、指を愛撫されているような感覚にレニの脈が乱れていく。
最後にそっと指先に口づけ、マリアの唇は離れていった。
「…ごちそうさま」
「…………すけべ」
恨みがましく、熱の篭った蒼で自分を見つめるレニを宥めるように、桃色の唇にマリアはキスを落とした。
その後ふたりは、チョコレートよりも甘い夜を過ごしたという。
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